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札幌高等裁判所 昭和52年(う)101号 判決 1978年3月23日

本店の所在地

北海道苫小牧市新中野町二丁目一番一八号

大成観光株式会社

右代表者代表取締役

兼松晴

本籍

北海道苫小牧市新中野町三丁目二番一三号

住居

同右

会社役員

兼松晴

昭和六年九月一日生

本店の所在地

札幌市中央区北二条西一四丁目二番地の二

白熊総業株式会社

右代表者代表取締役

阿部吉三郎

本籍

札幌市白石区菊水五条二丁目二番二六

住居

同市南区真駒内南町四丁目三番地の四

会社役員

阿部伸一

昭和一三年一一月二三日生

本店の所在地

札幌市中央区南一〇丁目一、二六九番地

有限会社 宝第一商事

右代表者代表取締役

高橋勇

本籍

北海道室蘭市母恋南町一丁目二六番地

住居

札幌市中央区南九条西四丁目一番地の二

会社役員

高橋勇

昭和五年一一月二一日生

右大成観光株式会社に対する農地法違反・法人税法違反、兼松晴に対する農地法違反・法人税法違反・詐欺、白熊総業株式会社、阿部伸一に対する各農地法違反、有限会社宝第一商事、高橋勇に対する各農地法違反幇助、各被告事件について、昭和五二年三月一四日札幌地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人六名から各控訴の申立があったので、当裁判所は次のとおり判決をする。

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人林信一提出の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官秋山富雄提出の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから、これを引用し、当裁判所はこれらに対し次のように判断する。

控訴趣意第一点(農地法違反及び同幇助)について

(一)  違法の認識について

所論は、要するに被告人兼松、同阿部、同高橋は、同人らがその売買に関与した原判示各土地の所有権移転につき北海道知事の許可を必要としないものと考え、またそう信じるにつきやむをえない事情があったので、自己の行為の違法性を意識せずかつ意識する可能性もなかったから、農地法違反ないし同法違反幇助の故意がないものというべく、これを肯認して被告人ら三社及び三名の原判示各所為につき同法違反ないし同法違反幇助の成立を認めた原判決には事実誤認ないし法令適用の誤がある、というのである。

しかしながら、農地法違反及び同法違反幇助の故意が成立するためには、事実の認識があれば足り、違法性の意識は必要としないと解するかぎり、所論は主張自体失当である。また、故意が成立するために行為者に違法性を意識する可能性があることを要すると解しても、原判決挙示の関係証拠によれば、原判示第一の弁天土地五筆(以下弁天地という)及び同第二ないし第四の浜厚真土地二筆と清住土地一筆(浜厚真・清住土地という)は、原判決指摘のとおり、本件売買当時まで、弁天土地では主として牛を、また浜厚真・清住土地では農耕馬をそれぞれ放牧するなどして、いずれも牧場としての利用を継続しており、右の各土地の牧草・雑草の状況も養畜のための採草や家畜の放牧にある程度役立つものであるうえ、牧柵等による管理もされていた形跡も認められるので、右各土地が農地法二条所定の採草放牧地にあたることは明らかなばかりでなく、関係証拠によれば、上記弁天土地は、登記簿上地目は原野があるが、被告人兼松において、原判示第一の1、2の各売買契約に先立ちその土地を見分し、同土地が阿部清所有の牧舎・サイロ等を中心にして電気牧柵に囲まれた中に牧草が生育している採草放牧地であることを認識しており・上記浜厚真・清住の土地は登記簿上各地目が牧場であるうえ、被告人兼松、同阿部、同高橋において、原判示第二ないし第四の各売買契約の以前に、各土地の状況を見分けし、同土地上に牧柵が存在し、平担地に牧草を混じえた丈の短い草がほぼ均等に生育している採草放牧地であることを現認していたと認められるのであって、さらに関係証拠によれば、上記被告人三名は、いずれも不動産取引を業とする各被告人会社の代表取締役であって、登記簿上牧場である右各土地(浜厚真・清住土地)につき売買に際しその現況が原野である旨の農業委員会の現地目証明が必要であることも了知していたこと、農業委員会に対しその申請がなされたが却下された事実が明らかなことも合わせ考えると、被告人兼松、同阿部、同高橋において、それぞれ上記弁天・浜厚真・清住の各土地が採草放牧地であるため北海道知事の許可なく売買することが違法である旨を意識する可能性は十分にあったと認められる。なお所論は、北海道がいわゆる苫東開発のための用地買収において、いったん業者不介入の原則を採り、業者に自粛を要請しながら、みずからこれを破り大手商社に農地を含む未買収地の買収を委託した不手際を、被告人らが自己の違法性を意識する可能性を欠いた旨の主張の論拠とするが、関係証拠によれば、原判決指摘のとおり、当初道が所論のように不動産業者不介入の自粛通達を発しながら、その後苫東開発用地の買収が困難な状況に直面するや一転して大手商社に農地・非農地の別なく買収の協力を要請し、これが一端となって、本件事犯の一部が行われた事実が窮われるにせよ、こうした事情があったからといって、それが直ちに上記違法性の意識の可能性を否定する根拠になるとは考えらえない。

してみれば、被告人兼松、同阿部、同高橋が原判示第一ないし第四の各土地の所有権移転につき各犯罪移転につき各犯罪事実を認識していたことの明らかな本件において所論の見解によるも、同被告人ら三名が、それぞれ農地法違反ないし同法違反幇助の故意を有していたことは動かしがたいところである。したがって、被告人らの原判示第一ないし第四の各所為につき農地法違反ないし同法違反幇助罪の成立を認めた原判断は正当であって、原判決に所論の事実誤認・法令適用の誤はなく、論旨はいずれも理由がない。

(二)  売買当事者の認定について

所論は、原判決は、判示第二の2、第三の1、2及び第四の1、2において、上記浜厚真土地二筆のうち一八五番の土地が(イ)株式会社大成総業から白熊総業株式会社へ売買され、さらに(ロ)右白熊総業から三田興産株式会社へ売買された旨認定するが、右白熊総業は、大成総業と三田興産の間における右土地の売買を仲介したにとどまり、真実の売買は大成総業と三田興産の間に成立したにすぎないから、原判決には事実誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、所論の点を含めて原判示第二の2、第三の1、2及び第四の1、2の各事実を優に肯認することができる。

すなわち右証拠によれば、所論指摘のように、(イ)大成総業と白熊総業間の右土地の売買価格は、(ロ)白熊総業と三田興産との間の右土地の売買価格と等しく、また三田興産は白熊総業に対して右売買に関する手数料という名目で売買代金の三%の金員を支払っていることが認められるが、他面、上記(イ)、(ロ)の各売買においていずれも白熊総業が買主ないし売主となって各売買契約書がそれぞれ作成され、右土地の仮登記も白熊総業名義で残っていること、白熊総業は、大手企業の依頼を受けた被告人高橋の要請により右土地の所有権を三田興産に確実に取得させるために、同社と大成総業の間に入って自ら中間の買主及び売主となることにより、右土地について単なる仲介者としてではなく、売主として法律上の責任を負う旨を明確にしたものであることがそれぞれ認められる。してみれば、上記三社間における経済的利害関係の点は別として、法律的には、白熊総業が上記(イ)、(ロ)の各売買契約における売買当事者であると認めるのが相当である。

したがって、原判決が、原判示第二の2、第三の1、2及び第四の1、2において、白熊総業を各売買の買主ないしは売主として認定したのは正当であり、原判示のとおり白熊産業は各売買につき農地法三条一項違反の責任を免れず、関係被告人は同法所定の罰条の適用を受けるべきである。そして、記録及び証拠物並びに当審における事実取調の結果に徴しても、原判決の右事実認定につき所論の事実誤認を疑わせるに足りるものはなく、右事実に対する法令の適用につきその誤を見出すことはできない。論旨は理由がない。

控訴趣意第二点(詐欺)について

(一)  詐欺罪における因果関係について

所論は、原判示第五の詐欺罪について、被害者の成田サノは、判示第五の各約束手形六通(以下本件融通手形という)の振出人が東京証券取引所一部上場予定の日本熱学工業株式会社(以下日本熱学という)なので、同社の決済能力 同手形の信用性に着目し、かつ右手形割引に伴う付随的利益をも考慮して、被告人兼松らの求めに応じて右融通手形を割引いたのであり、原判示第五のように同被告人らの欺罔行為により右手形を土地代金の支払のため振出された商業手形であると誤信して割引いたものではないので、同被告人らの欺罔行為と成田サノの金員等交付との間には因果関係が存在しないから、これを肯認した原判決には事実誤認ないし法令適用の誤がある、というのである。

しかしながら、原判決挙示の証拠によると、優に原判示第五の事実を認定することができ、記録及び証拠物を精査検討しても、原判決に所論の事実誤認ないし法令適用の誤を見出すことはできない。

すなわち右関係証拠、特に原審における成田サノ、城倉晃、山岡一男の各供述及び北岡勉の検察官に対する各供述調書によれば、被告人兼松は、昭和四九年四月二六日、日本熱学東京支店において、同社専務取締役城倉晃及び山岡一男らと共に、同社振出の本件融通手形六通(額面合計一億円)を成田サノ方で割引く相談をした際、割引先に融通手形である旨を明らかにすれば割引を得られないものと危惧し、割引を成功させるため、右融通手形を土地売買代金支払のために振出された商業手形である旨偽ること及び右欺罔行為を真実らしくみせかけるため日本熱学の社員北岡勉を前地主の代表者に仕立てて同行させることを打ち合わせ、原判示第五のとおり北岡を伴って成田サノ方に赴いたうえ、右打ち合わせどおり同女に対し原判示のような欺罔行為に及んだこと、これに対し成田サノは、所論指摘のような割引に伴う付随的利益や日本熱学が東証一部上場が予定される大会社であることを念頭においたものの、本件手形の割引に応じた決定的な理由は、従前から十数回にわたる土地取引を通じ知り合っていた被告人兼松らが、原判示のように前地主の代表者と称する者を同行したうえ、該手形が土地代金支払のために振出されたものである旨明言したため、これにより同被告人らが述べるとおり右手形が真実土地売買の裏付けをもった商業手形であると誤信した点にあることが認められる。これらの事実と原判決が指摘するとおり、融通手形が一般に商業手形に比較してその支払が不確実であるという社会通念及び割引いた右手形の額面合計が一億円という高額なものであることをも合わせ考えると、本件においては、成田サノが、被告人兼松らから右手形割引を求められた際、前記北岡が日本熱学の社員であって前地主の代表者ではなくかつ本件手形がいずれも融通手形であることを知っていれば、右手形の割引に応じなかったものと認められ、被告人兼松らの本件欺罔行為と成田サノのした金員等交付の間に刑法二四六条一項所定の詐欺罪の因果関係の存在を優に肯認することができる。したがって被告人兼松の原判示第五の所為につき詐欺罪の成立を認め刑法二四六条一項を適用・処断した原裁判所の判断は正当であって、所論は採用しがたく、論旨は理由がない。

(二)  詐欺罪の故意について

所論は、原判示第五の詐欺罪について、被告人兼松は、本件融通手形を振出した日本熱学の決済能力及び同手形が満期に確実に決済されることを確信し、したがって成田サノにはなんら損害を与えることはないものと信じて原判示第五の所為に及んだもので詐欺罪の故意はないから、この点において原判決には事実誤認がある、というのである。

ところで、刑法二四六条一項所定の詐欺罪の故意は、欺罔行為により相手方を錯誤に陥れ、右錯誤によって相手方に財物を交付させるという事実の認識があれば足り、それ以上に相手方が右財物交付の対価として取得した財産上の利益が交付した財物の価格以下であるために相手方に財産上の損害を与えることの認識まで必要とするものではないと解すべきである。そして、原判示挙示の関係証拠によれば、被告人兼松は、原判示第五のとおり、成田サノを欺罔して同女から手形割引金名義で現金五、〇〇〇万円及び小切手一通(額面四、三九三万一、〇〇〇円)の交付を受けたのであるが、その際同被告人において日本熱学の決済能力及び右現金等の対価として同女に手渡した同社振出の本件融通手形六通が満期に確実に決済されることをそれぞれ確信していたか否かは別として、右欺罔行為により、同女が本件融通手形を真実土地売買の裏付けをもった商業手形であると誤信し、その錯誤に基づいて現金及び小切手を交付するものであることを認識していたことを認めるのに十分である。したがって、被告人兼松が刑法二四六条一項所定の詐欺罪の故意を有していたことは明らかである。

そして、記録及び証拠物を精査検討しても、被告人兼松の原判示第五の所為につき詐欺罪の故意を認め、刑法二四六条一項にあたるとした原判決は正当であって、原判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認は存在しない。それゆえ、所論は採用しがたく、論旨は理由がない。

○ 控訴趣意第三点(法人税法違反)について

所論は、(一)原判決は、札幌市簾舞所在の原判示土地(以下本件土地という)に関する北興信用商事と成田鉄工との間の売買の斡旋収入として金九、三一六万九、〇〇〇円及びこれに伴う必要経費として金四、一七六万九、〇〇〇円をそれぞれ被告人大成観光株式会社の本件事業年度(昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日まで)における不動産所得及び必要経費として計上したうえ、その差額金五、一四〇万円を大成観光の法人税の課税標準に加えこれをもとに、原判示第六のとおり、同社及び被告人兼松において、法人税を逋脱した旨認定しているが、右売買斡旋による収入は、北興信用商事と大成観光との間において、成田鉄工が北興信用商事に対し本件土地の買受代金の一部の支払のため振出した額面一億八、〇五八万三、〇〇〇円の約束手形の決済が行われその事実が確認されることを停止条件として配分されるものと合意されていたところ、右約束手形金が決済され、取立委任を受けた銀行から北興信用商事まで右手形金の入金案内があって手形決済が確認されたのは昭和四七年五月一日であったから、被告人大成観光の北興信用商事に対する利益配分請求権は同日確定しかつその履行期が到来したものである。したがって右利益配分による収益及びこれに伴う前記必要経費は、いずれも翌事業年度に属すべきものであって、本件事業年度に計上すべきものではない。(二)また原判決は、成田鉄工が本件土地を北興信用商事から代金二億八、〇五八万三、〇〇〇円で買受ける際、被告人大成観光株式会社において右売買代金の一部を負担する趣旨で成田鉄工に交付した金五、〇〇〇万円を、大成観光の本件事業年度における法人所得から損金として控除しないまま、原判示第六のとおり、法人税の逋脱を認定しているが、右五、〇〇〇万円は、大成観光において、成田鉄工のために三〇日以内に本件土地を他に転売する斡旋をその論旨どおり履行できなかった契約違反により、同年三月二七日、成田鉄工から違約金として没収されたものであり、大成観光が同額の損失を蒙ったのであるから、同社の本件事業年度における損金として計上すべきである。以上(一)、(二)によれば、本件事業年度につき逋脱すべき法人所得は存在しないこととなるので、原判決には右(一)、(二)の点において、事実の誤認がある、というのである。

しかしながら、原判決挙示の関係証拠を総合すれば、所論(一)、(二)の点を含め優に原判示第六の事実を認定することができ、記録及び証拠物並びに当審の事実取調の結果を検討してみても原判決に所論の事実誤認があるとは考えられない。以下所論にかんがみ順次説明を加える。

(一)  関係証拠によれば、北興信用商事は、昭和四七年一月二八日、大成観光との間で、同社に同商事所有の本件土地を他に転売することの斡旋を委託し、その転売価格が仕切価格金一億八、七三六万九、〇〇〇円をこえた場合にはその超過部分に相当する利益を大成観光の所得として同社に配分する旨の土地販売委託契約を締結したこと、大成観光は、右契約に基づき本件土地転売の斡旋を行った結果、同年二月一七日北興信用商事と成田鉄工との間で右土地を代金二億八、〇五八万三、〇〇〇円で売買する旨の契約を締結させることに成功し、同月二八日、成田鉄工において、右代金のうち金一億円を北興信用商事に対し銀行小切手で支払ったが、その残額については満期を同年四月二七日、支払場所を静岡相互銀行川崎支店とする約束手形を振出してこれを同商事に交付したので、その際同商事との間において、仕切価格をこえた部分に相当する全利益の大成観光に対する支払は、右金一億八、〇五八万三、〇〇〇円の約束手形が決済された時点で行われることを了承し、また二月二八日に右土地について同商事から成田鉄工に対する所有権移転登記も経由されたこと、右銀行小切手金一億円はすぐ支払われ、さらに右金一億八、〇五八万三、〇〇〇円の約束手形については、同商事において札幌信用金庫月寒支店に取立の委任をした結果、満期の翌日である同年四月二八日額面全額の金員が支払われて決済され、同日成田鉄工側から電話で同商事に対し決済した旨の通知がされたが、銀行からの正式の決済の通知は同年四月二九日と翌三〇日がたまたま休祭日にあたっていたため、同年五月一日に同商事に到達したこと、同商事は、大成観光に対し、前記土地販売委託等契約に基づく利益の配分として同年二月二九日から五月一日にかけ数回にわたって金九、三一六万九、〇〇〇円を支払ったこと、大成観光において本件課税の対象とされた事業年度は昭和四六年五月一日から同四七年四月三〇日までであったことがそれぞれ認められる。そして右認定の事実によれば、大成観光は、北興信用店事との間において、前記額面一億八、〇五八万三、〇〇〇円の約束手形が決済された時点において上記利益全額の支払を受けるものと合意し、同手形が満期の翌日である同年四月二八日にその額面全額について決済され、同日中に成田鉄工から同商事に対し右手形決済の通知がされたことがいずれも明らかであるから、大成観光において、本件事業年度である同年四月二八日に、同商事に対し、法律上前記利益金九、三一六万九、〇〇〇円の支払を請求することができるようになったものと解するのが相当である。そして、右利益配分請求額が、本件事業年度において、法律上行使することができるものである以上、右利益金は、同事業年度に帰属する収益の額に該当するものといわなければならない。所論は、右売買斡旋による利益配分請求額は、前記約束手形の決済だけでは足りず、右決済の事実が確認されることを停止条件として初めて発生するものであると主張するが、関係証拠を仔細に検討しても、大成観光と北興信用商事との間において、右約束手形の決済の確認までを停止条件として、右利益の配分を合意した形跡は窺われず、かつ所論のような内容の停止条件の合意があったものと解することもできない。所論指摘のように銀行からの上記約束手形決済の正式の通知が翌事業年度に属する同年五月一日に行われたのは、前認定のとおり右決済後五月一日まで休祭日が連続したためであって、そのために北興信用商事から大成観光への上記利益配分の完済も同日に持ちこされたものにすぎないと認められるから、銀行からの右決済の通知が翌事業年度になったことも、前記認定を妨げるものではない。なお、検察官は、大成観光において、前記売買斡旋による収益が確定したのは、代金決済及び所有権移転登記手続がされ、同社の仲介業務が完了した昭和四七年二月二八日である旨の主張もするが、上記認定の事実関係に徴し、にわかに採用しがたい。

以上の次第で、本件土地の転売斡旋による収入金九、三一六万九、〇〇〇円を本件事業年度において収入すべき収益の額にあたるとし、同金額からこれに伴う必要経費四、一七九万九、〇〇〇円を差し引いた差額金五、一四〇万円を大成観光の同事業年度における法人税の課税標準に加えて、原判示第六のとおり同社及び被告人兼松の法人税逋脱を認定した原裁判所の判断はすべて正当であって、原判決に所論(一)の事実誤認を見出すことはできない。

(二)  原判決挙示の関係証拠によれば、(1)成田鉄工は、前記(一)のとおり、北興信用商事から本件土地を代金二億八、〇五八万三、〇〇〇円(坪当り約九〇〇円)で買受け、同年二月一七日ころ、大成観光との間において、(イ)同社が一応成田鉄工に対する関係において右代金の一部五、〇〇〇万円を負担すること、(ロ)成田鉄工と大成観光とは、右各支出金額に応じて右土地に対する持分権を取得すること、(ハ)大成観光は右土地を約定の日から三〇日以内に成田鉄工の承認する価格で他に転売できるよう斡旋すること、(ニ)もし(ハ)の転売ができないときは、大成観光は、坪当り金一、二〇〇円の割合による代金を支払って成田鉄工の右土地に対する持分権を買取ること、(ホ)大成観光が(ニ)、(八)を実行しないときは、右五、〇〇〇万円は確定的に成田鉄工の所得となるものとし、他面、大成観光において右土地の持分権の登記手続ができるものとすることなどの契約を結び、その旨の協定書(昭和四七年二月二六日付・当庁昭和五二年押第四三号の五二の綴のうち一枚目)を作成したうえ、右(イ)に従い、同月二八日ころ、大成観光から金五、〇〇〇万円を受領したこと、(2)被告人兼松は右(1)の契約に基づき右土地を他に転売しようと努力したが、前記約旨どおり三〇日以内に右土地を転売する見込みがたたなかったので、成田鉄工の役員成田サノにおいて、同年三月二七日被告人兼松と相談のうえ、前記(イ)、(ロ)の約定を契約当初に遡って失効させるとともに、右土地の所有権は以後一切成田鉄工に帰属し大成観光はこれに対しなんら持分権を有しないこと、大成観光はそれ以後も成田鉄工のため右土地の転売先を発見するため努力すること、右五、〇〇〇万円は大成観光の仲介により右土地が他に転売されるまで成田鉄工において預ることとする旨の合意をしたこと、(3)被告人兼松は、右(2)の約旨に基づきその転売先を捜し続けた結果同年六月九日に至ってようやく大成観光の斡旋により成田鉄工と株式会社大和観光との間で右土地を代金四億一、五〇〇万円で売買する契約を締結させることに成功し、その後、同月一九日までの間に、上記(2)の約旨に従い成田鉄工から大成観光に対し前記五、〇〇〇万円を返還していること、以上の各事実が認められる。

右(1)ないし(3)認定の各事実及び成田サノ自身が原審において、上記(1)の(ホ)の約定どおり、成田鉄工が大成観光に対し右土地に関する五、〇〇〇万円の持分権を与えるのと引換えに五、〇〇〇万円を確定的に取得するよりも、右五、〇〇〇万円はなお預り金として保管しておいたうえ、大成観光をしてさらに右土地を他に転売するように斡旋の努力を尽させ、右土地を当初の約旨どおり他に転売した方がむしろ得策であると考えた旨供述していること並びに所論のように仮に五、〇〇〇万円が成田鉄工により違約金として没収されたのであれば、上記(1)の(ホ)の約定に該当する場合であるから、大成観光において右土地に対する五、〇〇〇万円の持分権の登記手続を請求する権利を取得した廿であるのに、関係証拠を検討しても、被告人兼松が成田サノをはじめ成田鉄工側の者に対し、右持分権登記請求の話を持ち出した形跡が全く認められないことなどに照らすと、大成観光において、昭和四七年三月二七日、前記(1)の(ハ)のように右土地を他に転売する斡旋が不履行に終った段階で、成田鉄工から右(1)の(ホ)に従い、五、〇〇〇万円を違約金として没収された事実はなく、右五、〇〇〇万円は、上記(2)のように、大成観光の土地転売斡旋の債務履行を確実にするため、なお成田鉄工において預り金として保管していたものと認めるのが相当である。所論は、前記成田サノの作成したカネマツ合資会社宛の預り書(当庁昭和五二年押第四三号の四四)には、昭和四七年二月二八日付覚書(同押号の五二の綴のうちの二枚目)によって本件五、〇〇〇万円を預った旨の記載があり、かつ右預り書及び覚書はいずれも同年三月五日ころ右成田サノ方で作成されたものであるが、その後三月二七日ころ成田サノが被告人兼松と相談のうえ、右預り書及び覚書を含め同日以前に作成された一切の書類を失効させ、前記(1)の同年二月二六日付協定書も破棄して新たに同年三月二七日付の協定書(同押号の五二の綴のうちの五枚目)を作成し、本件土地の一切の権利が成田鉄工に帰属したことを合意しているものの、新たな協定書では、五、〇〇〇万円の帰属についてなんら触れていないので、右五、〇〇〇万円が成田鉄工により没収されたと解する余地がある、という。しかしながら、弁護士磯村義利作成の上申書によれば、右預り書及び覚書は、上記三月二七日付協定書と共に、いずれも同弁護士事務所においてその原案が作成されたものであるが、その作成の日時はおおむね同年三月下旬であったと認められることと成田サノ及び小川潔の原裁判所に対する各供述等の関係証拠を統合すれば、上記預り書、覚書及び三月二七日付協定書が作成されたのは、同年三月五日ころではなく、同月二七日ころであったと認めるのが相当である。してみれば、右所論はその前捐を欠き失当であるといわねばならず、原審公判調書中の被告人兼松の供述記載及び同被告人の検察官に対する各供述調書中、上記認定に反する部分は、関係証拠に徴しいずれも信用性に乏しく、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

以上の次第で、大成観光が本件事業年度内において、成田鉄工側より金五、〇〇〇万円を没収され同額の損失をした事実はなく、原裁判所が、右五、〇〇〇万円を同社の本件事業年度における法人所得から損金として控除しないまま、原判示第六のとおり法人税逋脱を認定した判断は正当であって、原判決に所論(二)の事実誤認は存在しない。

したがって、所論は採用しがたく、論旨はいずれも理由がない。

よって、刺事訴訟法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決をする。

検察官秋山富雄公判出席

昭和五三年四月五日

(裁判長裁判官 粕谷俊治 裁判官高橋正之、同豊永格は差支えにつき署名押印することができない。裁判長裁判官 粕谷俊治)

昭和五二年(う)第一〇一号

○控訴趣意書

被告人 大成観光株式会社

外五名

右被告人らに対する農地法違反等被告事件の控訴の趣意はつぎのとおりである。

昭和五二年九月二〇日

右弁護人 林信一

札幌高等裁判所

第三部 御中

原判決にはつぎの諸点において誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであって、破棄を免れない。

第一点 農地法違反について

一、違法の認識についての判断の誤り。

(1) 原判決の認定

原判決は、「本件故意の成立には、土地の形状についての認識があれば足り、右土地の所有権移転に法の規制をうける土地である。というまでの認識を要しない。」となし、また仮りに「知事の許可なく売買することが違法であると意識する可能性があることは必要であると解しても、本件については違法であると意識する可能性は十文存していた」と判示した。然しながら、右はつぎに述べるように、事実の誤認があり、それがひいては責任阻却の解釈を誤らしめた違法があるものである。

(2) 違法性認識の欠

被告人らはいづれも本件土地の所有権移転につき知事の許可を必要としないものと考え、またかく信ずにつき止むをえないとする事情があった。

(ア) 農地性喪失の状況

農地法一条には「農地はその耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、耕作者の農地の取得を促進し、及びその権利を保護し、並びに土地の農業上の効率的な利用を図るため、その利用関係を調整し、もって耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図ることを目的」として制定された旨宣言している。従って農地は本来右目的実現のため耕作者に対し確保されるものと解さなければならない。

そうであるなら土地の農地性、非農地性の判断基準は、当該土地が農地として耕作者のため確保されなければならないものか、否かに求めることゝなる。

然るところ本件各土地はいづれも本件売買当時すでに工業基地用地としての性格をもつに至り、農業生産の基盤としての機能は失われていた。

(イ) いわゆる苫東開発と国及び道の行政指導

本件土地は、当時国及び道が推進していた苫小牧東部大規模工業基地開発計画というわが国においてこれまでに類を見ない巨大開発の中に組込まれている。

この用地九、八〇〇ヘクタールの途方もない広大な地積の取得を担当したのが道企業局であり、苫小牧市所在の出先機関「開返事務所」であるが、昭和四四年、四五年二ケ年間に総額四三一億を投じて民有地(七、三九三ヘクタール)を先行取得しようと、地価抑制について何らの事前措置をとることもなく、手あたりに買付作業に入った。

(a) 現地法務局の取扱

本来地目と現況とは一致すべきものである。ところが公簿と現況とが 離しているのが実情である。そしてこの不一相は行政の怠慢である。このことは証拠上一々摘示するに及ばない程明らかとなった。原野が開墾地として売渡され、その開墾すべき時期後その検査(いわゆる成耕検査)に合格しながら依然地目は原野として放置され法務局はその形式審査の建前から、非耕地として権利設定ないし移転の登記がなされる(札総第七二号札幌法務局長回答及び原審高橋証人)。しかも地目の確定は「現況主義」であるという。当該土地を目的として取引をなす国民は、まづ農地・非農地を現況に即して判断し、かつその判断ゐ責(しかも刑時責任)を行政の怠慢に代って負担しなければならない。被告人らはこのような状況において、苫東基地周辺内外で通常何の支障もとがめだてもなく行われていた土地取引を従前の方式とかわることなく実行してきた。それは行政が放任し或は認めてきていた実例を踏襲したに過ぎない。

(b) 道の姿勢

とくに特筆しなければならないのは道の苫東用地取得に対する姿勢である。

道議会が設置したいわゆる「百条委員会」の報告書(乙七)一六九一頁にはつぎのような指摘がある。

道側が用地取得を至上命令と思い込み、その目的達成の熱意のあまり、平常は当然配慮すべきである地方自治体行政庁としての責任とその手続を欠き、または、逸脱したと解するにしても、他の被買収者に対する姿勢、買収価格や手続の面とは著しく幾るものがあり、素直にその弁明を認めるわけにはいかない。

さらに同法告書は、

道が買収した用地のうり、農地法に違反していた幾つかの事実が明らかにされたぎ、その内容を区分するとおおむね次のとおりである、

として三種の事例、九法人五八名一、五四四、二七四m2の違反を挙げ

道は、買収着手当初より、農地面積の多いことを考慮して、農地法の精通者を現地事務所に配置していたにもかゝわらず、かゝる結果を招いたことは遺憾で

あるとし、厳に反省を求めている(同書一六九五-六頁)。

道は右のように道みずから農地法違反をなし、農地法の精通者たる道職員四名が札幌地方検察庁に事件送成をうけたという(同書一六九六頁)。

このような道の姿勢は、いきおい被告人ら民間業者に、農地、非農地を区別することなく、土地を取得するについて正当性を確信させるに至る。まことに「上これを行えば、下これにならう」である。

(c) 道の指導

一体道は苫東基地用地買収にあたり、予想される不動産業者の進出に対し、どのような行政指導をしたのであろうか。

右に引用した報告書も指摘しているように、基地面積の大半を占める民有地はその殆んどが農家の所有であり、農地である。戦後、一望千里の勇払原野を開拓民に開放、払下げした土地である。農地についての道の「精通者」であれば、当然に本件基地内の土地が農地法所定の手続を経なければ売買できない旨を不動産業者に明示徹底すべきであろう。土地の現況が農地か否か甚だ不分明であり、土地の地目と現況とが不一致である現地事情からすれば当然のことである。然るところ道は「不動産業者に買収予定地内の取引活動を自粛されたい」旨の文書を昭和四五年四月一三日発したに過ぎない(東調書三、(三))。農地についての具体的指導ならびに注意は全くなされてはいない。これでは道が全面的に買収するのだから不動産業者は手を出すなというに均しく、不動産業者の営利活動をいわれもなく拘制するものと解されるばかりか、道の左文書は、「本件基地内用地は不動産業者が道と本来合、併存して取得しうる地位にあることを前提とし、単に開発事業の目的から自粛を求めたもの」と解釈さえされるのである。

事実、道に現況に即して農地・非農地を判別して用地を買収するという手続の配慮を全く欠いていたことは丸紅札幌支店次長安倍改造の証言に明らかである(なお高山証言参照)。道は不動産業者不介入の自粛通達を発出しながら、みずからこれを破り、綜合商社でありかつ苫小牧東部開発株式会社の出資社である前記丸紅株式会社に未買収地(農地も含む)の買取りを委託した。道のこのような不適切、不徹底な指導は、不動産業者に基地内の用地取得は「法律違反」となるという認識を欠如させることとなる。このことは当然の事理であろう。

(3) 原判決の誤り

以上の事実を正確に判断すれば、被告人らには、本件土地の売買につき「許されるもの」と信じ、またかく信ずることにまことに止むをえない事情があったものとしなければならない。

原判決は以上の事実を誤認し、かゝる事実は「本件犯行の情情としてはともかく、直ちに右違法性の認識もしくはその可能性を否定させる根拠になるとは思われない。」と判断したのは、責任阻却の法理につき、その解釈を誤った違法あるものとの非難を免れない。

二、売買当事者認定の認り

(1) 原判決の認定

原判決は緑川博所有の土地(浜厚真一八五番地)の土地につき、<1>大成総業から白熊総業への売買(罪となるべき事実第二、2、第三、1)、<2>白熊総業から三国興産への売買(同第三、2)が存在し被告人高橋は右<1><2>の売買に関し幇助した、と認定した。

しかしながら右<1><2>の売買は以下に述べるように本来大成総業と三国興産との間の一個の売買である。即ち被告白熊総業は大成総業と三国興産間の売買を仲介したに過ぎない。従って大成総業は本件土地を三国興産に売渡契約をしたものであり、被告人高橋は大成総業・三国興産間の売買契約につきこれをあっせん助言したにとゞまる。

(2) 白熊総業が契約当事者名義人となったわけ

本件土地の真実の取得者は三国興産であり、白熊総業は単に仮設的名義人に過ぎない。その事情はつぎの理由による。

(ア) 本件土地取得の目的

三国興産が本件土地を取得するに至った事情は、昭和四七年六月の丸紅札幌支店次長安倍改造と道企業局用地開発課長相馬政幸との会談に遡らなければならない。このことはすでに証拠上明らかである。

丸紅は三国興産名を用いて、当時難行していた基地内民有残地を取得させることゝとた。この民有残地を取得させるため、その尖兵として白熊総業を使った。白熊総業はこの意をうけて大成総業から丸紅即ち三国興産のため本件土地を取得することゝした。自己所有のため取得するという意思は当初よりない。

(イ) 白熊総業名義で契約したわけ

これは全く丸紅の指図によるもので「大成総業から三国興産が直接買受けた形」をとると都合が悪いので、その間に白熊総業を入れたという(安倍証言)

だから、大成総業-白熊総業、白熊総業-三国興産、の売買価格は全く等しく、三国興産は白熊総業および宝第一商事に仲介手数料として売買代金の三%を支払ったのである(同安倍証言、高橋勇検察官調書-49・9・6六項、阿部調書-49・4・29-)

(3) 原判決認定の誤り

然るところ、原判決は「内部的にはともかく、対外的には右会社が売買当事者であることに明らかであり、単に右のような内実を有するからといって農地法の罰則の適用を免れることができない」と判示した。

右は明らかに農地法三条の解釈を誤ったものといわなければならない。即ち同条は内部的所有権の移転を伴はない信託的譲渡契約ないしは名義人の仮設の場合まで罰するものとは解されないからである。

原判決は到底維持できない。

第二点 詐欺について(被告人兼松関係)

一、因果関係についての事実誤認

(1) 原判決の認定

被告人兼松の所為(融通手形を商業手形と偽ったほかに共犯者を前地主の代表者に仕立てるなどの手段を弄した)は、詐欺罪における欺罔行為と評価するに何の妨げともならずとなし、成田サノは本件手形が土地売買を原因とする商業手形である旨誤信し、よってもって割引金名下に金員を交付したもので因果関係を認めるに十分であると認定し、弁護人の無罪の主張を排斥した。然しこれはつぎに述べるように、詐欺罪における因果関係についての解釈を誤った違法あるものである。

(2) 因果関係はない

(ア) 手形の信用性

今日手形取引の実務上、約束手形を取得しようとするものは、右手形が商取引に起因しているかどうかに着目するよりは、手形債務者の信用力の如何を判断する。これは手形が信用の用具としての機能をもつことから当然のことであろう(有斐閣法律学全集「手形法・小切手法」五六-五七頁参照)。本件約束手形は前記のようにいづれも日本熱学の振出にかゝるものである。

(イ) 成田サノ錯誤

成田サノの本件手形割引行為の始終を観察すれば、その錯誤は振出人たる日本熱学に対する「信用力」にあったのであり、いわゆる融手か商手かにあったのではない。即ち成田サノは日本熱学が「一部上場の会社でもございますし、しっかりした会社だと思っておりました。」と信用している。しかも成田サノは入念にも、本件各約束手形(金額合計一億円)、日本熱学の印鑑証明(コピー)を持って川崎市内にあるその取引先銀行へ行って、振出人の信用調査をしてこれを確認し、もって割引依頼に応じているのである(兼松。山岡被告人供述)。当時札幌信用金庫月寒支店においても日本熱学振出の約手であるなら四億円位は割引に応ずるといっていたことに徴しても、その信用性の極めて高かったことがうかがわれる(兼松供述)。

なお成田サノの証言及び被告人らの当審における供述によれば、本件手形を割引いた附随的原因としてつぎの事情があげられる。即ち右手形割引によって、成田サノは成田商工が抱えていた苫小牧市植苗四番地の一の原野を売却処分でき、また日歩七銭ないし八銭の割引料を利得できる。のみならず日本熱学から鉄工機械関係の下請工事を成田鉄工が請負うことゝなる。誠に好都合な話である。

(ウ) 本件手形割引の決定的原因

以上のように成田サノの本件各手形の割引は日本熱学の信用力からみて満期に確実に決済され、かつ併せて右に述べた利益がえられるということが、その決定的要因となったものである。決して融手を商手と錯誤したゝめに割引をなし、割引金を交付したのではない。

(3) 原判決の誤り

たとえ被告人の欺罔手段が融手を商手と偽り、共犯者を前地主の代表者に仕立てるなど通常許容される限度を超えたとしても、被欺罔者が本件におけるが如く、手形の信用性に着目しその決済能力に信用をおいて本件割引行為をなしたとすれば被告人欺罔行為との間には因果的連鎖はも早ない。

原判決は右につき事実誤認をなし、その誤りは判決に影響を及ぼすことは明らかである。

二、故意についての事実誤認

(1) 原判決の認定

原判決は「詐欺の故意は・・・可罰的な欺罔行為をなし、これにより相手方である成田サノを錯誤に陥れ、よって該手形の割引を受けるという認識があれば足りるのであって、それ以上に同女に実害を与えることの認識までは要しない」ことは明らかである旨判示した。

然しこれはつぎに述べるように故意の存否についての事実認定を誤った違法あるものである。

(2) 日本熱学の決済能力に対する確信

被告人兼松は、本件約束手形が各満期に間違なく決済されるものと確信し、いさゝかの疑点ももたなかった。二部から一部への上場替え、株価の人気、テレビ等での宣伝、どの一つをとっても危険を思わせる材料はない。北海道苫小牧市周辺の土地を扱う不動産業者に過ぎない被告人が、大阪本社の日本熱学の経理事情など全く窺い知ることのできるものではない。従って被告人には金員を詐取するという意思は全くない。満期に確実に決済されるからである。

(3) 原判決の誤り

今日手形取引において、いわゆる融通手形が市場に流通していること、しかもこの場合それが商手を装って振出原因を作出していることは顕著な事実である。手形当事者はその振出人あるいは手形義務者の支払能力に着目して、これを流通過程におき、かつ取引する。

被告人はその振出人日本熱学の決済能力にいさゝかの疑念も有しなかった。

成田サノが錯誤したのは、満期に日本熱学が銀行取引停止に陥ってしまったということである。このことは日本熱学の城倉常務を除き、被告人も成田サノも全く予期しえぬ出来ごとであった。

被告人に故意はない。原判決はこの点において事実誤認をなし、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

第三点 法人税法違反について(被告人兼松及び同大成観光関係)

一、原判決の認定

被告人兼松は同大成観光の業務に関し、法人税を免れるため不正な方法をもって、判示の事業年度において所得金額は金八、六〇〇万五、四一二円であって、これに対する法人税額は金三、一三四万四、三〇〇円であったのに拘らず、所轄税務署長に対し、内容虚偽の過少確定申告書を提出し、金三、一一五万八、七〇〇円の法人税を逋脱した旨、認定し、これに対する右弁護人の主張(原判決弁護人の主張第三、(一)(二))を排斥した。

二、簾舞の土地売上高九三、一六九、〇〇〇円(冒陳別紙二、3、<16>)。

計上の誤り

右売上金は本件事業年度の翌期に計上すべきものであり、かつ右土地の売上手数料(必要経費)として国が控除した四一、七六九、〇〇〇円(同右別紙二、20廉舞土地の合計)は、仮受金(前払手数料)として処理すべきものである。而して右前払手数料はその原因となった売上金が計上されるときに必要経費として損金計上すべきである。

従って、本件事業年度についていえば、前記売上高九三、一六九、〇〇〇円から右仮払金を控除した金四四、二三六、四一二円は、課税標準として計上すべきものでない。

(1) 本件所得の性質

本件不動産所得は、大成観光にとって単なる譲渡所得ではなく、北興信用商事の簾舞土地の転売に当って取得すべき転売譲渡益の配分である。

ところが北興信用商事にとって転売益が確実に発生するかどうかは、前記成田鉄工振出の約束手形金一八〇、五八三、〇〇〇円(転売代金残)の決済にかゝっているわけである。

即ち右未決済手形金分が転売益に相当するからである。

280,583,000-94,200,000=186,383,000円

転売価格 仕入価格 転売益+共通経費

右の事実関係からすれび、転売益が確定し、手形の未決済を理由に北興信用商事がその支払を拒みえなくなったとき-即ち入金案内をうけた五月一日に、大成観光は利益配当請求権をはじめて税法上計上しうることゝなったと解すべきである。

(2) 北興信用商事との利益分配契約

だから北興信用商事と大成観光との間で、昭和四七年二月二八日、簾舞土地の利益配分につき、その支払期を成田鉄工株式会社振出の約束手形金一八〇、五八三、〇〇〇円がその満期である同年四月二七日に決済され、その事実が確認されたときとすることに合意されていた。

而して右約束手形金が決済され、持出銀行に入金が確認されたのは五月一日のことであることは証拠上明らかである(決済は満期の翌日二八日になされ、二九日は天皇誕生日で休日、三〇日は日曜日)。従って利益配分の債権が確定しかつ履行期が到来したのは五月一日なのである。即ち本件事業年度の翌期に入ってからである。

(3) 株式会社北興信用商事からの仮受金

国が簾舞土地処分に関し手数料として計上した四一、七六九、〇〇〇円は、仮受金として処理すべきものである。

このことは右北興信用商事常務取締役佐藤英毅および同社経理課長渡辺昇の各証言により明白である。

前述のとおり北興信用商事と成田鉄工との売買契約書によれば代金二八〇、五八三、〇〇〇円の残金一八〇、五八三、〇〇〇円は昭和四七年四月二七日満期、東京都内の静岡銀行支店を支払場所とする成田鉄工振出の約束手形で決済する定めとなっていた。北興信用商事としては右手形金が決済され入金が確認されてはじめて、大成観光に対し、利益金(転売益)の支払債務が発生することゝなる。従って右手形金の支払が完了する以前に約定利益金を前払することは北興信用商事にとって、対応する勘定科目がない。よってこれを「仮払」扱としたという。

ところで、その相手方である大成観光ではこれを「借受金」として経理上処理していた。

右借受金は利益配当が実現したときに相殺処理すればよい。また「仮受金」であったとしても、前述のとおり税理上、利益配当を計上した年度に損金勘定に計上すればよい(費用収益対応の原則)。

(4) 利益配当金及び仮(借)受金の本件事業年度における適正処理。

以上の理由からすれば、本件事業年度において、簾舞土地の所得については、本来計上すべきでない九三、一六九、〇〇〇円を売上額から落し、反面本来損金として算入すべきでない四一、七六九、〇〇〇円を控除して修正した差額金四四、二三六、二三六、四〇〇円(―93,169,000円+41,769,000円)を本件事業年度の課税標準となすべきではなく、翌期に計上税務申告しなければならないことゝなる。

三、成田鉄工に交付した金五、〇〇〇万円の損金不計上の誤り。

大成観光株式会社が昭和四七年二月二八日簾舞土地代金として成田鉄工会社に交付した五千万円(符号五七号三枚目)は同年三月二七日、契約違反を理由に没収された。従って本件事業年度の法人所得から右五千万円を控除すべきである。

(1) 五千万円の性質

右五千万円は簾舞土地の買受代金二八〇、五八三、〇〇〇円中の大成観光負担部分である。即ち符号五二号一枚目「協定書」の第三条以下及び同五七号三枚目「領収証」の領収文言によれば、五千万円は土地共同買受の大成観光の負担部分(即ち土地代金)であることは、一見明白である。然し成田サノはこれを転売を担保するための保証金であると解していることは注目すべきことである(成田サノ証言)

(2) 五千万円の没収

昭和四七年三月二七日五千万円は成田鉄工により没取した。

(ア) 成田鉄工の考え方

成田鉄工側は北興信用商事の土地代金支払を確保するために簾舞土地の転売を右支払期である昭和四七年四月二七日以前に実現することが絶対の要件とされた。

このプログラム通り進行すれば、成田鉄工とすれば自らは五千万円を支払ったのみで、金七六、八六〇、六〇〇円の利得を挙げることゝなる。

1,200円×256,203(坪)-(280,583,000円-50,000,000円)=76,860,600円

万一転売ができなければ二億三千万円余を支出して土地を抱かなければならない危険を負担することとなる。

だからこそ成田サノは、大成観光の支払金五千万円を、右転売を担保の保証(転売できなければ違約金として没取する)と観念していたのである。

(イ) 二通の「協定書」

成田鉄工と大成観光間に、簾舞土地転売に関し、二通の「協定書」(符号五二号一枚目)がある。これを取り上げ五千万円が没取されたか否かを検討する。

二月二六日付協定書には大成観光の権利として、土地の持分権および転売不可能なときの持分登記請求権が記されているが、三月二七日付の協定書では前記協定書を破棄して無効とするとともに、簾舞土地の一切の権利が成田鉄工に帰属したことを宣言し、反面大成観光の前記持分権が喪われたことを規定している(第三条、第二条)。五千万円の処置について、第二次の協定書は何ら触れていない。

ところで、その作成日付に争のある「預り書」(符号四四号)には、五千万円は「昭和四十七年二月二十八日付覚書による」金員として預った旨の記載があり、右覚書というのは符号五二号二枚目のものをさしているのである。成田サノは右覚書、預り書はともに三月二七日成田宅で作成したといゝ、被告人兼松は三月五日頃成田宅で作成したという。

若し兼松のいう日に作成されていたとすれば、三月二七日以前に作成された一切の書類は二月二六日付の基本協定の失効と共に効力を失い、従って五千万円は没取されたことになる。

また成田サノのいうように三月二七日に共に作成されたとするなら、五千万円は預り金として、変りなく成田鉄工で保管されていたかに見える。果して然るか。

(ウ) 五千万円の取扱-覚書第二項の解釈

右覚書第二項には「乙の預けた金五千万円に対しては土地売買による物件売却の完了時に直ちに甲は乙に返還するものとする」とある。(甲は成田サノを、乙はカネマツ合資会社をさすが、実体上は成田鉄工と大成観光のことである。)

成田サノのいうように右覚書を作成したのが三月二七日であるとするなら、この時点で、すでに転売は不可能と確定していた。従って覚書第二項の反面解釈として五千万円は没収するか返還するかいづれかを択一しなければならない。ところが成田サノは五千万円の性質は違約保証金として観念している。没取しかないわけである。このことは符号五二号三枚目「念書」によって明らかである。即ち右念書は被告人兼松をして前記「預り書」の廃棄を確認させているのであって、このことは五千万円の没取の承認ということになるわけである。

なお右念書に翌二八日付の公証人の確定日附のあることはこの文書が成田鉄工にとってそのような重要性をもつものと解していた証左となる。不履行(転売先を見つけえなかったこと)の負い目をもつ被告人兼松・山岡はその事情から没取もやむなしと考えたものゝ、この折成田の「うち金二千万円を返還する」という申出にまことに拾いものをした思いで、帰礼した。然しその送金はなされず五千万円全額は結局没取されることに確定してしまったわけである。

(3) 没取後、五千万円の取扱

昭和四七年六月九日成田鉄工は被告人兼松の斡旋で簾舞土地を大和観光株式会社に代金四億一千五百万円で転売し完結したことは証拠上明らかである。成田鉄工は僅か四ケ月に至らずして転売益一三四、四一七、〇〇〇円を取得した。被告人兼松・山岡らの供述によれば、転売の利益は折半ということであった。当初のプログラム通り進行すれば、大成観光は五千万、成田鉄工は現金五千万円と残金についての約手振出で足る、という事情からすれば、当然のことであろう。

大和観光との右契約成立後、その契約どおりとすれば、成田鉄工は大成観光に

<省略>

預り金 利益折半分

を返還かつ支払わなければならない。

そこで成田鉄工はすでに没取した五千万円を復活させ、大成観光にあらためてこれを支払うことゝし、さらに二、八〇〇万円を手数料名目で支払った。

右の次第で、五千万円は一たん没取し(本件事業年度)、あらためて支払う(翌事業年度)ことにより、成田鉄工は利益折半の支払債務につき三九、二〇八、五〇〇円の支払を免れたわけである。

<省略>

四、原判決認定の誤り

以上の次第で、二、の所得は本件事業年度に計上すべきものではなく、かつ三、の損金を本件事業年度に計上することゝし、その合算額金九四、二三六、四一二円は、判示の所得額を優に超え逋脱すべき法人所得ははじめから存在しないことになる。

原判決は以上の事実認定を誤ったもので、破棄を免れない。

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